2023年に45回目を迎えた「ぴあフィルムフェスティバル」。約30年見守ってきた荒木啓子さんに、フェスティバルやインディーズ映画への想いを伺った

2023年に45回目を迎えた「ぴあフィルムフェスティバル」。約30年見守ってきた荒木啓子さんに、フェスティバルやインディーズ映画への想いを伺った

荒木 啓子

Profile

ぴあフィルムフェスティバル PFFディレクター

荒木 啓子

1990年「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」運営事務局に参加。1992年PFF初の「総合ディレクター」に就任。自主映画のコンペティション「PFFアワード」の応募促進や、入選作品選考システムの改善、招待作品部門の充実、映画講座の継続など、映画の歴史を俯瞰するような企画を実施すると同時に、PFF関連作品の海外映画祭出品をはじめとして、世界各国に日本の新しい映画の才能を紹介し、映画での国際交流や制作チャンスの拡大を図っている。

PFFアワード・映画祭・PFFスカラシップの3本柱が若き映画監督を支援

井村井村

ぴあフィルムフェスティバル(PFF)は1977年に始まったのですね。1977年といえば日本映画の低迷期でしたが、どのような経緯で設立されたのでしょうか?

低迷期だったからこその設立です。小津安二郎さんから山田洋次さんらの時代は、映画会社が人を雇って映画を制作しているから、みんな社員を目指して大学の映画研究会などに所属していたわけですよ。将来映画監督になりたい人は就職試験を受けるという時代でした。映画が黄金期だった1950年代は、映画会社の就職試験が厳しくなって高学歴の人しか入れないようなエリート産業になっていったんですね。その後映画業界自体が低迷したので雇用できなくなっていきました。一方で、映画監督は憧れの職業。そういう人たちのために、この映画祭を始めました。 
ぴあという会社自身が、映研に所属し映画監督になりたかった人たちが始めた会社なのです。そしてビジネスで成功し、映画会社には入れなかったけれど映画をつくりたい希望を持つ若者たちのために、当時の日本ではまだほとんどなく、海外では新人監督を次々と排出している映画祭を主催しようということになりました。

荒木さん荒木さん
井村井村

PFFのテーマは「映画の新しい才能の発見と育成」、ミッションは「発見」「紹介」「育成」とありますが、具体的にどのようなものか教えてください。

テーマは当初からまったく変わっていません。ミッションの「発見」は自主映画のPFFアワード、「紹介」は映画祭です。「育成」は、映画祭での上映も育成の一つですがメインはPFFスカラシップです。これは1984年に始め、当初は8ミリの映画をつくっていた人にとって憧れだった16ミリで長編をつくってもらう試みでした。徐々に出資してくれる企業も増え、映画祭からプロの監督も生まれるようになっています。

荒木さん荒木さん
井村井村

PFFスカラシップでは「映画祭がトータルプロデュースする長編映画制作システム」によって新人監督のデビューを支援されていますが、どんなシステムでしょうか。

PFFが出資だけでなく専任のプロデューサーを置いて、プロデュースも行います。世界中の映画祭で映画制作を支援していますが「出資するから好きに作っていいよ」というケースが多いものです。PFFスカラシップは専任プロデューサーがトータルでプロデュースします。入賞者の企画コンペがスタートラインで、企画書を出してもらい、面談して、そこで一緒に映画をつくる人を決めます。

荒木さん荒木さん

PFFスカラシップの成功は、どれだけヒットするかなどいわゆる商業的成功ということではなく、その人がやってみたいことをどれだけ実現できるかにあります。PFFアワードの受賞作を超えてさらにつくりたいものをつくることにどれだけチャレンジできるか。実験でもあり、これを理解している人じゃないとチャレンジは難しいです。スムーズに完成する人もいれば3年かかる人もいます。その人の映画づくりを一緒に支援するのがスカラシップであり、専任プロデューサーです。受賞者のやりたいことを引き出し、それにふさわしいプロフェッショナルな人をどう選び、どんなチームを組んで、どういう風にやっていくかなどをトータルで考えられる人がプロデュースをしており、通常の映画製作会社では難しい取り組みです。

荒木さん荒木さん
井村井村

制作費はどうされているのでしょうか?

PFFスカラシップの意義に賛同した正会員企業と一般社団法人PFFが制作費を出資しています。

荒木さん荒木さん

応募作品の長さやジャンルを問わない。審査は大変だが自主映画に向き合いたい

井村井村

PFFへの応募条件が、応募作品の長さやジャンルを問わないのは、どのような理由からでしょうか?

「映画の新しい才能の発見と育成」がテーマの、自由な映画祭だからです。制約を設ける方が選ぶのは楽だとは思いますが、PFFは楽な道は選ばないんです。セレクションに参加してくれている約15名は、3カ月の生活を全て使って観ないといけないので本当に大変です。一人あたり120時間ほど審査のために観ています。自主映画は、その人がオリジナルに考えて全身全霊でつくっているわけですから、第1回からこの方針でやっています。

荒木さん荒木さん
井村井村

セレクション・メンバーの約15名はどのように決めたのでしょうか?

経験者の方に推薦してもらって、固定せずときどき入れ替わっていただいています。長くやりますよと言ってくださる方もいますが、10年続くということはなかなかないですね。全作品にコメントするので、大変な仕事ですから。

荒木さん荒木さん
井村井村

一度受賞したら、応募できないのでしょうか?

何回受賞しても応募できます。グランプリを受賞した人が、次作を応募し受賞したこともあります。2015年に20歳でグランプリを受賞した『あるみち』の杉本大地さんは、PFFのあとベルリン国際映画祭で最年少受賞監督になりました。2017年に次作『同じ月は見えない』をPFFに応募して審査員特別賞を受賞しています。

荒木さん荒木さん

映画祭に関わることは、すなわち「映画とは何かをずっと考え続けること」

井村井村

荒木さんがPFFの運営に約30年間携わる過程で、インディーズ映画業界はどのように変わってきて、今はどういう状態だとみていますか?

インディーズ映画の呼び方も変遷しました。最初は自主製作映画と呼び、次に海外にならってインディペンデント映画と呼んでいた時期もあります。でもその言葉は根付かず、「自主」と呼ぶ人が多いので「自主映画」と呼ぶことにして、今日に至ります。
映画は一般的に「商業」と「自主」に分けられていますが、本当は商業も自主もないのではと思っています。今劇場で上映されている映画も、いわば自主映画です。宣伝費がないと大きな映画館ではなかなか上映できませんが、宣伝費がない映画でも上映する小さな映画館が増えています。そうなると「商業とは何か」「自主とは何か」に誰も明確な答えは言えないです。

荒木さん荒木さん

例えば商業とされる作品で、多くの関係者がつくっていても自主制作のようなスピリッツの作品もありますから「映画とは何か」「作っている人たちがどう考えているか」をみる時代なのではないか、と考えています。純粋に映画に関する仕事だけやって生活している人は少なく、皆さん、それ以外の仕事もしていますよね。今は過渡期で、新しいやり方を試したり、映画とは何だろうと考えたりしている時期です。映画祭に関わることは、映画とは何かをずっと考える仕事です。

荒木さん荒木さん
井村井村

商業と自主を分けて考えるというのは古いでしょうか。

古いと思います。映画だけで採算がとれるのはトム・クルーズとか、ハリウッドなど世界マーケットの規模じゃないと難しい。今の時代、「これならヒットする」と断言できる作品はないのではと思います。

荒木さん荒木さん
井村井村

インディーズの監督は自分で脚本を書いている方が多く、短い作品であってもぐっとくるものがあります。こういう方々が、好きな映画作りを続けていけるような仕組みを作りたいと私は考えています。

現在は、映画が収益を得る場所が少なくなっている状態ですよね。映画は素晴らしいコンテンツなのに産業として成り立ちにくく、自分の映画をどう売ればいいのかを自分で考えなくてはならない時代になりました。誰にも頼れず、自分で考えるという状態がまさに「インディペンデント」ですよね。それができる人しか残れず、厳しいところに来ています。

荒木さん荒木さん

PFFはぴあのアイデンティティであり、維持していくために2017年に一般社団法人PFFを設立しました。どうしても続けたいと考え、ぴあが全身全霊で取り組んで、賛同社を増やす努力を続けています。私もPFFを通じて、毎年新たな課題をもらい、映画の奥深さ、素晴らしさを痛感しています。

荒木さん荒木さん

第45回 ぴあフィルムフェスティバル

第45回 ぴあフィルムフェスティバル

コンペティション部門 PFF アワード 2023

557 本の応募作品の中から入選した、22 作品をスクリーンで上映。上映後は監督を迎えて のトークを行います。

《スケジュール》

9月9日(土) 〜 9月23日(土)

※9月23日(土) はグランプリ作品、準グランプリ作品を上映

《場所》

国立映画アーカイブ ※月曜休館

上映スケジュールはコチラ 外部リンクのアイコン チケット販売はコチラ 外部リンクのアイコン 招待作品部門 外部リンクのアイコン

アルノー・デプレシャン監督特集

9月16日(土) 14:30 〜 『イスマエルの亡霊たち』

9月16日(土) 19:00 〜 『二十歳の死』

9月17日(日) 12:00 〜 『魂を救え!』

9月22日(金) 12:00 〜 『そして僕は恋をする』

特別企画

《生誕120年・小津安二郎が愛したふたり》

9月19日(火) 14:00 〜
『有りがたうさん』監督:清水 宏
『明日は日本晴れ』監督:清水 宏
『人情紙風船』監督:山中貞雄

《20代監督の衝撃作!》

9月16日(土) 14:00 〜
『わたしはロランス』監督:グザヴィエ・ドラン
9月17日(日) 15:30 〜
『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』
監督:シャンタル・アケルマン

イカすぜ!70~80年代

《大森一樹再発見》

自主映画時代① 8mm6作品一挙上映 ※8ミリ作品は全てデジタル上映

9月10日(日) 13:00 ~
『革命狂時代』『ヒロシマから遠く離れて』『空飛ぶ円盤を見た男』(3部作)『明日に向って走れない!』

自主映画時代② 8mm + 16mm 2作品

9月10日(日) 16:30 ~
『死ぬにはまにあわない!』『暗くなるまで待てない!』『夏子と長いお別れ』
必見!秘蔵長編映画豪華2本立て
9月20日(水) 13:00 ~
『女優時代』『悲しき天使』

《斎藤久志再発見》

9月14日(木) 14:30 ~
『うしろあたま』監督:斎藤久志
『0×0(ゼロカケルコトノゼロ)』監督:風間志織

9月14日(木) 18:30 ~
「特別企画:斎藤監督の現場で出会った3人が語り、秘蔵映画をみせる」

塚本晋也監督 presents
9月21日(木) 18:30 ~
『サンデイドライブ』監督:斎藤久志
ワンピース『Whatever』監督:斎藤久志
ワンピース『DON'T LOOK BACK IN ANGER』監督:斎藤久志

9月14日(木) 11:30 ~『草の響き』監督:斎藤久志

《日比野幸子プロデューサー再発見》

9月13日(水) 18:30 ~ 『杳子』
9月15日(金) 15:30 ~ 『風櫃の少年』
9月15日(金) 13:00 ~ 『旅人は休まない』

《山中瑶子監督『あみこ』への道》

9月9日(土) 12:00 ~ 『ポゼッション』
9月9日(土) 15:00 ~ 『あみこ』『おやすみ、また向こう岸で』
9月9日(土) 18:30 ~ 『ホーリー・マウンテン』

《塩田明彦監督がみつめる相米慎二の少年少女》

9月12日(火) 13:30 ~
『ションベン・ライダー』『どこまでもいこう』『お引越し』

《アルノー・デプレシャン監督『女囚701号 さそり』を語る》

9月17日(日) 14:30 ~ 『女囚701号 さそり』

《驚異のデビュー作》

9月13日(水) 13:00 ~ 『ビリィ★ザ★キッドの新しい夜明け』『ビハインド』
9月16日(土) 18:00 ~ 『WANDA ワンダ』

《『陽炎座』4Kデジタル完全修復版 ワールドプレミア上映》

9月21日(木) 13:00 ~『陽炎座』

ピーター・バラカン氏による音楽映画シリーズ「ブラック&ブラック」

9月19日(火) 19:00 ~ / 9月20日(水) 18:30 ~『ワッツタックス』

第29回PFFスカラシップ作品

9月15日(金) 18:30 ~『恋脳Experiment』

リンク

井村のアイコン

インタビュアー

井村 哲郎 | Tetsuro Imura

以前編集長をしていた東急沿線のフリーマガジン「SALUS」(毎月25万部発行)で、三谷幸喜、大林宣彦、堤幸彦など30名を超える映画監督に単独インタビュー。
その他、テレビ番組案内誌やビデオ作品などでも俳優や文化人、経営者、一般人などを合わせると数百人にインタビューを行う。
自身も映像プロデューサー、ディレクターであることから視聴者目線に加えて制作者としての視点の切り口での質問を得意とする。

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