大学在学中から映画祭での受賞歴があり、ジーンシアターでも2作品配信している古厩監督から演出でのこだわりやキャリア、好きな監督まで幅広く伺った

『栞、のらず、はさまず』『鈍色のそら』について

──ジーンシアターで『栞、のらず、はさまず』『鈍色のそら』の2作品を配信しています(2023年7月現在)。まず『栞、のらず、はさまず』について伺っていきたいと思います。見終わって背筋が少しぞっとするような作品で、ストーリーがすごく面白いなと感じました。ストーリーはどうやって思いついたのでしょうか?

普段脚本を書く時は1週間ぐらいかかるのですが『栞、のらず、はさまず』に関しては1日で書き終えました。
というのも48時間映画祭(48 Hour Film Project)で制作した脚本だからです。48時間映画祭は48時間で脚本から撮影、編集まで行い、作品を仕上げなければなりません。「世にも奇妙な物語」のような、変な後味が残る作品にしようと、意識して書き上げた作品です。

──映像が全体的に少しダークな感じがしたのですが、撮影する時の演出はどんなことを考えたのでしょうか?

この作品はほとんど三脚を使わずに撮影して、常に観た人に少し不安な感じが残るように演出しました。微妙に画面が揺れることで、不安感をあおっています。

──俳優さんが同世代の人だと思うのですが、お友達は同じ大学の方ですか?

そうです。大学で映像制作のコースと俳優のコースがあって、そこの俳優部の方たちです。特に車椅子役の役者さんは謎のキャラクターで、喜怒哀楽がないけど愛想がいい感じで演じてほしいとお願いしました。

短編映画紹介

『栞、のらず、はさまず』(7分24秒)の視聴はこちらをクリック >> 『栞、のらず、はさまず』

ストーリー

林間学校の催しの一環で行われた、宝探しゲームに参加する男女3人。
道に迷って森をさまよい、疲れ果てた彼らは、最終チェックポイント地だという“古民家”らしき建物を発見する。
現れた家の住人は、車いすの青年だった。彼は3人を家へ招き入れ、続けて提案をする。
__「せんべい、食べませんか?」
__「敬語、やめませんか?」
この提案が、のちの不思議体験の引き金となっていく……。
高校生3人組と不思議な雰囲気を醸し出す青年の、奇妙な交流の模様が描かれた作品。

──次に『鈍色のそら』について伺います。人間の冷たさと温かさの落差がすごく激しく描かれている作品ですね。ストーリーはどうやって思いついたのですか?

『鈍色のそら』(にびいろのそら)は、「愛」がテーマの映画祭(愛媛国際映画祭「愛顔感動ものがたり」)用に制作した作品です。原作があり、それを元に脚本を書いたので、私が普段書くことのないような感じの脚本になりました。

──同世代の人は演技指導もやりやすいかと思いますが、子供やお父さんにはどのような演技指導をされましたか?

俳優が学生だと一緒につくり上げていく感じになりますが、子役の方とか年上の方は、基本的に私より映像業界が長いので引っ張っていただくことが多く、一度見せていただいて、ちょっとこういうニュアンスを入れたいなということだけ口頭でお伝えしました。

──ご飯を食べているシーンの演出は難易度も高いと思いますが、役者さんは演技をするのに大変でしたか?

役者さんが本当においしそうにご飯を食べてくれたので、ご飯を食べながらセリフを言っていただくことは割とスムーズにいったんです。むしろ役者さんが映っていない画の方が演出に時間がかかることが多かったです。 画角がああだこうだと言っている間にご飯が冷めちゃってレンジでチンしに行ってとか(笑)、食材が多かったので一気にチンできなくて(笑)時間がかかってしまいました。

短編映画紹介

『鈍色のそら』(5分00秒)の視聴はこちらをクリック >> 鈍色のそら

ストーリー

今日から父とその結婚相手の女性のもとで暮らすこととなった、一人の少女。
初めこそぎこちなかったが、優しく寄り添ってくれた義母と徐々に打ち解けていき、三人で幸せに暮らしていた。
__ しかし年月が経ち、妹が生まれると、暮らしは一変する。
孤独感にさいなまれながらも、彼女は無理に笑ってふるまっていた。
一体、誰が少女に手を差し伸べてくれるのか?

演出に対する考え方について

──古厩監督の演出面について伺います。人をドキドキさせるとか、不安にさせるといった演出が多いと感じます。意識して演出されていますか?

そうですね。段階を踏んで一段一段と不安にさせていくことは意識しています。「ん?」って思うことを最初に用意して、ちょっと主人公の表情も「あれ、ちょっと何か、、、何かおかしいぞ」って表情を見せて、だけどまた普通のストーリーに戻って通常に進むんですけど、また、「ん?」と思わせるポイントを用意して・・・・・と重ねるようにして不安を演出しています。

──映画をつくる上で気を使っていることはどんなことですか?

毎回変わっていくのですが、今は撮影している時の演技の「間」と、作品が全部完成してから見る「間」の差って全然違うなって思っています。現場で多すぎるぐらいじっくり「間」を取った方が、最終的に自然に見えるなとすごく思うので、とにかく役者さんに演技指導する時も、本当に「間」をたっぷりとってもらい、怖いぐらい「間」を開けてリアル感を演出することにこだわっていますね。

──「間」以外にも何か気を遣っていることはありますか?

学生の時はあまりできてなくて、今一番意識していることなんですが、編集とか撮影面に関してだと、長いカットと短いカットの差をつけることを意識しています。長回しの時は本当に長くまわして、短いカットは0.何秒みたいなカットを小刻みに入れるみたいな感じで、画に抑揚をつけることをすごく意識しています。

──映画づくりは楽しいですか?

楽しいですね。初めてこんな夢中になれることに出会ってなのでこのまま続けていきたいと強く思っています。
映画づくりで楽しい瞬間が2つあります。1つはすごくいいアイデアが思いついて波に乗って脚本を書いている時、もう1つが実際に想像した画が撮れて映像を具現化できた時です。撮影した素材を見ている時がとても楽しいです。
絵コンテはCMなどでは書きますが、映画の場合は縛られる感じがして書いていないです。

古厩監督のキャリアについて

──キャリアについて伺います。映画づくりに興味を持ったきっかけはどんなことですか?

高校生の時に、声優になりたくて放送部に少しだけ放送部に所属していたことがありました。その時、放送部のスタッフで短編映画を制作するという学校のルールがあって。脚本を募集していたので、応募したら選んでいただいて、そのまま「監督もやって」と言われて監督をやらせてもらったのがきっかけです。
その作品の演出中、高校の教室の引きの画で、ある生徒が教室に入ってきて、机の中を覗いて何か物を見るシーンがあったんですけど、最初引きを撮って机の中からカメラを入れて覗いた瞬間に覗いた表情を撮って、それをカットで繋いだ時に、こんなにスムーズに繋がるんだと本当に驚きました。
こうやって映画ってつくるんだ、と。そのカットの切り替わりの気持ち良さにすごく魅了されてしまって、そこから映画をつくりたいなと思い、映画を学べる大学に入学しました。

──大学ではどんなことが身につきましたか?

1年生の頃は座学で映像の歴史から撮影の仕方とかを学ぶのですが、2、3年の時に実習がありました。それが他の大学にはない良いところだと思うんですけど、実際に日活スタジオに通わせてもらって、美術の建て込みからしっかりした機材を使って、普段学校ではできないクレーンも使う本格的な実習で。本当に大変でしたがすごく勉強になりました。

──古厩さんはすごくたくさん作品をつくられていますが、大学時代で短編映画をどのくらいつくられましたか?

映画だと10くらいです。CMとミュージックビデオとかPVとか合わせると30弱ですかね。

──ミュージックビデオはやっぱり短編映画と違って、また面白いところはありますか?

私の基盤が映画なのでミュージックビデオの制作は違う形でつくりますね。ミュージックビデオは音での表現がなくなるので、その分何か映像で見せないといけないっていうのと、見た人が自由に受け取れるっていう要素が映画よりも強いのかなと思っていて、目で見える情報だけで見た人に解釈してもらう面白さはあるのかなと思います。

──マイクロシネマコンテストのミュージックビデオ部門で「敢闘賞」を受賞しましたね。

応募がたくさんあったと伺っているので、受賞できたことはとても嬉しく、自信にもつながりました。

──今は大学卒業されてフリーでどんな仕事をやられているのですか?

フリーで活動しています。ウェブCMの監督やテレビCMの編集とか舞台のカメラマンなど色々なことをしています。

好きな監督は大九明子監督と松井大悟監督

──好きな映画監督はいらっしゃいますか?

好きな監督は大九明子監督です。『勝手にふるえてろ』っていう作品がすごく好きです。私は大学に入るまで日本の映画が面白いと思ったことがあまりなかったのです。大学に入ってから日本の映画を観るようになりました。映画はつくる方から入ったので観る方少なくて。だけど『勝手にふるえてろ』を見て、日本映画の良さってこういうところなんだなって思って、そこから私もこういうのがつくりたいと思ったきっかけになった監督です。

──どんな風に面白かったのですか?

そもそも親が、洋画が好きだったんですよ。親はダイナミックなのが好きで、邦画はそういうのがないとよく言われていたので、私も何となくそういうイメージだったんです。
だけど、ダイナミックさはないけど人間の心情に寄り添ったり、そういう感性がすごく繊細な感じがします。この作品は割と主人公の心情がコロコロ変わるんですけど、演出もただただその主人公の気持ちが変わるのを演出するのではなくちょっと面白おかしくギャグも入れながら。途中でミュージカルが入ったりするんですよ。ダイナミックじゃないけど、すごく凝っているのに魅せられて、すごいなと思いました。

──他には好きな監督とかいらっしゃいますか?

松井大悟監督です。去年『ちょっと思い出しただけ』っていう映画を撮られてて、この作品が本当に面白かったというのが理由です。
脚本もつくられているのですが、『ちょっと思い出しただけ』は、最初から結末が見えててどんどん時代を遡っていって最終的に今に戻る構成なんですけど、考えつきそうでなかなか考えられない構成です。人間の心情を描くのも素晴らしくて、本当に人が生きてるみたい、役者さんが役者さんとは思えなかった作品で、演出面も長けている方だなと思いました。

──他にもいますか?

今泉力哉監督の『あの頃』という映画も好きです。『あの頃』は登場人物が多いんです。何人も出てくるんですけど、その時々の人物のピックアップの仕方も面白いので、最終的に全員名前を覚えられる。人物たちはちゃんと重要な存在で、誰一人こぼした演出になっていないというのが、あの作品のすごく好きなところです。

インディーズ映画業界について

──最後にインディーズ映画について伺います。これからも短編は撮られていくと思いますが、インディーズ映画は大半が収益化されるわけじゃなく持ち出しになりますよね。それでもつくっていきたいっていう映画監督としての理由やモチベーションがあれば教えていただきたいです。

はい。大きい映画祭にまず入賞する為につくっています。ぴあ(ぴあフィルムフェスティバル(PFF))などの大きな映画祭に入賞して、最終的には商業の監督になるのが目標なので、その夢を掴むためにまず助監督になる道ではなく作品をつくって応募しています。

──インディーズ映画業界についてどのように感じていますか?

私の現在地がまだインディーズ映画界には入れてないというか。今はまだ学生の卒業したぐらいのレールにしか乗っていないので分からないんです。ただ卒業制作を普通の劇場で上映してもらう機会があった際に、観に来てくださった一般の方がいたんです。「自分はインディーズ映画を見るのが趣味だから」と、私と全く関わりがない方がインディーズ映画を見に来てくれ名刺とか渡してくださって。私はインディーズ映画をつくっている人もそれを好きな人にもまだ携わったことがなく、そういう方もいるんだと初めて触れた瞬間でした。私は自分のステップアップのために映画をつくって、それがインディーズ映画になっているって感じなのですが、インディーズ映画を楽しみにしてくれている人もいると知って、そういう人の存在も意識しようと思いました。

──今後どういう風に活動していきたいですか?

作品をつくり続けて大きな映画祭に出していくというのが主軸です。生きていくためにお金も稼がないといけないですし、少しでも自分のスキルアップにつながる映像の仕事、編集とか撮影とか監督に関わらないことでも取り組むことで監督業に役立つことって色々あるので、お世話になっている会社からのお仕事をしつつ、映画の自主制作をつくることをメインにこの1年は活動していきたいと思っています。